第69章

綾人という名を耳にした瞬間、目を閉じていた夏目南の胸が、ひくりと跳ねた。療養院の門前で綾人を見たときの怒りが、ほかの感情をすべて押し流し――隣に周防律がいたことさえ、すっかり忘れていた。

いまになってそれを問われて、どう説明しろというのだろう。

……そもそも、どうして説明しなきゃいけない?

「何がどうしたの?」

夏目南は少しも後ろめたさを見せず、もう一度まぶたを閉じた。最初から、答える気はない。

だが周防律は真顔のまま言う。

「夏目グループとヒロトグループの契約。本当に君が主導したのか?」

夏目南の口元が、わずかに震えた。まさか、周防律の嗅覚がここまで鋭いとは。たった数語で、出...

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