第119章 医者がいない

今野優空は、祖父の声など耳に入っていないかのように、中島晴美を抱えたまま一度も振り返らずに去っていった。

その場に取り残された今野爺さんは、怒りで顔を真っ赤にし、首筋まで紅潮させていた。手にした杖を床へどんと打ちつけ、悔しさのあまり何度も杖先を鳴らす。

「何を考えとるんだ、あいつは……! こんなんで、やっていけるわけがないだろうが!」

そう吐き捨ててから、今度は雪乃へ向き直る。先ほどまでの怒気のなかに、いくらか申し訳なさが混じっていた。

「雪乃、あの孫は……いや、もうかばう気にもなれん。おまえに――」

言いかけたそのときだった。

ふと、床にじわじわと広がり、ひと筋にまとまり始めた...

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