第16章 杉谷和樹

「今野社長……?」

運転手がルームミラー越しに、おずおずと尋ねた。「降りますか?」

今野優空は視線を引き戻し、硬い声で言う。

「いい。病院へ」

車はゆっくりと動き出し、また静かにその場から消えていった。

今野優空はシートに背を預け、それきり窓ガラスに映る女を見なかった。

病院。

病室のドアを押し開けた瞬間、粥のやさしい匂いがふわりと鼻をくすぐる。

中島晴美が萌花のベッド脇に座り、スプーンでひと口ずつ粥を運んでいた。動きは丁寧で、やけに優しい。

「パパ!」

萌花が彼に気づくと、ぱっと顔を明るくして叫んだ。

今野優空は近づき、娘の額に触れる。まだ少し熱い。

「具合は」

...

ログインして続きを読む