第172章 待っている

アシスタントは思わず息をのんだ。

「今野社長、はい、そのとおりです。こちらの手配した者が、現場で目撃しています」

東山和馬は、アシスタントの言うとおりだった。

雪乃がヴァイオリンを弾く練習室へ、ほぼ毎日のように現れる。邪魔はしない。静かな隅を選び、立ったままだったり腰を下ろしたりして、ただ黙って聴いている。

一度座れば数時間。下手をすると午後いっぱい、ずっと。

最初はエリックも首をかしげたし、雪乃もやりづらくて指がこわばった。けれど回数を重ねるうちに、二人とも慣れてしまった。

いつしか東山が雪乃より先に練習室にいても、不思議には思わなくなる。

たとえば今みたいに。

ドアを押し...

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