第173章 彼もいる

結局、雪乃は東山和馬の申し出を受けることにした。こくりと頷いた、その直後。肩に掛けていたヴァイオリンケースが、ふっと奪われる。

「私が持とう」

東山和馬の声は、低く艶があった。

しかも気遣うように、雪乃の体にはほとんど触れない。手首にわずかに力を込めただけで、ケースを安定した手つきで受け取ってしまう。動作はやわらかく、それでいて節度があった。

「……はい」

雪乃は唇をきゅっと結んだ。

車は東山和馬が自ら運転した。

車内に漂う空気はどこか妙で、雪乃はただ顔をそむけ、窓の外を見つめるしかない。そうしていたほうが、まだ少し楽だった。

二人とも、自分から口を開こうとはしない。

どれ...

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