第28章 どうして来たの?

雪乃は窓の外、墨を流したような夜空に目をやり、力なく頷いた。

「うん、まだ……」

「何階?」

雪乃はきょとんとする。

「え、何のこと?」

「君の会社の前にいる」杉谷和樹はごく自然な調子で言った。「ちょっと持ってきたものがあるんだけど、下りてきて受け取れる?」

雪乃はその場で固まった。言葉の意味が、すぐには頭に入ってこない。

窓辺に寄って、下を覗く。

ビルの前に黒い車が停まっていた。ヘッドライトが夜の闇を白く切り裂いている。

「どうして来たの……?」スマホを握りしめたまま、雪乃は何を言えばいいのか分からなくなる。

「残業だって言ってたろ」杉谷和樹がくすりと笑う。「俺もさっき...

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