第65章 譲れ

今野優空がふと顔を上げる。雪乃の、凪いだ湖面みたいに静かな瞳に――真正面からぶつかった。

その目に射抜かれた瞬間、用意していた言い訳は喉の奥でつかえてしまい、一文字も出てこない。

しばらくして、優空は唇を噛むようにして、かすれた声を落とした。

「……もう、行け」

雪乃は一切立ち止まらない。くるりと背を向け、無表情のまま彼の横をすり抜けると、そのまま別荘へ向かった。

迷いのない後ろ姿。余計な未練など、最初から存在しないみたいに。

優空はその場に硬直したまま、動けなかった。一睡もしていない。いま本来なら、部屋へ戻って眠るべきなのに――そんな気分になれるはずもない。

ひゅう、と冷たい...

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