第70章 本当に君なのか

彼はアシスタントがドアをノックしようとした手を、そっと伸ばして制し、軽く首を横に振った。声色はどこまでも穏やかだ。

「もう大丈夫です。あとは私が入って、奥様と直接プロジェクトの件を相談します。あなたは自分の仕事に戻ってください」

さらに背後の部下へ視線で合図する。部下は小さく頷くと、空気を読んで一歩退いた。

アシスタントはノックすべきか手を引くべきか迷い、固まった。その一瞬、松村理玖が白く長い指で、コン、コンと二度だけ扉を叩く。

音は控えめだったが、中にいた雪乃は顔を上げた。すりガラス越しに見える、すらりと背の高い男の影。松村理玖だと一目で分かり、目元にふっと笑みが灯る。

雪乃は立...

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