第76章 噂話

今野優空が口を開いた。

起き抜けのせいか、声にはまだ朝特有の低さが残っている。雪乃が車のキーを手に取ったのを目で追った瞬間、彼の足がふっと止まった。

「今日、俺が送ろうか? ちょっと待ってて。すぐ支度する」

昨日の埋め合わせ――そういう意図なのは分かる。けれど雪乃は、それを受け取る気になれなかった。

彼女の中では、昨日の感情の波はすでに過去のものだ。いま意識のすべては、手元のプロジェクトに向いている。昨日のことを蒸し返して、優空と延々と言い合うのも避けたかった。

だから、考えるより先に断った。

「大丈夫。私ひとりで行くから。起きたばかりでしょう? 朝ごはんもまだなんだし、いつも通...

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