第96章 自ら

加藤は一瞬きょとんとして、すぐに我に返ると反射的に首を横に振った。

「それは……いけません」

加藤にしてみれば、萌花が思いつきで手伝いを言い出しただけだ。先に玄関へ向かい、靴箱から例のハイヒールを取り出してくる。腰を落として丁寧に抱え上げながら、いつもの調子で言った。

「お嬢様、朝ごはんにいたしましょう。もうご用意できております」

背を向けた、その瞬間だった。

立っていたのは今野爺さん――いつからそこにいたのか、どれだけ見て、どれだけ聞いていたのか。視線は萌花にまっすぐ落ちている。

加藤は慌てて取り繕うように言葉をつないだ。

「お嬢様は本当にお優しいですね。先ほど奥様がご出勤前...

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