第53話違う服を着たオオカミ

姿を見るより先に、その存在を感じた。

真の力を持つ者が部屋に入ってくると、雰囲気には特有の変化が生まれる。空気が少し希薄になり、話し声のボリュームが数デシベル下がり、人々は無意識のうちに道を開ける。イーサン・ハクストンが足を踏み入れたとき、ラ・コロナのメインアリーナで起きたのは、まさにそれだった。

タクティカルギアとコンバットブーツの海の中で、完璧に仕立てられたトムフォードのスーツを身にまとった彼は、馬鹿げたほど場違いに見えたが、なぜか他の誰よりも危険な存在に感じられた。プロの警備担当者チームが彼を取り囲み、ダークスーツとイヤピースでできた移動要塞を形成している。

「マジかよ」隣でライア...

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