第16章 愛人になる

聞き覚えのある声だとわかった瞬間、水上伊鶴は抵抗をやめた。

扉の向こうでは、ばたばたと乱れた足音に、怒鳴り散らす声まで響いてくる。

「クソが! どこ行った! 出てこい! この俺を追跡するなんざ、いい度胸じゃねえか!」

水上伊鶴がドアスコープをのぞくと、男が廊下で狂ったように銃をぶっ放していた。

いくら外へ出たくても、今はどう考えても好機じゃない。

伊鶴は扉に手を添えたまま、唇をきゅっと結ぶ。

紫檀の小箱はすぐ目の前にある。けれど今回を逃せば、次に取り戻せる機会がいつ来るかわからない。

深く息を吸い、彼女は覚悟を決めた。

自分は爆弾処理の専門家で、今井天とは多少の面識がある。

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