第3章
浅見水希視点
二年前、五十嵐佑真が、珍しい心臓病を患う新しい患者、立花杏弥について初めて私に話した時のことだ。
「彼女はまだ二十二歳なんだ、水希。それに、僕の前の医者たちに事実上、打つ手はないと告げられて、ひどく怯えている」
彼女を気の毒に思ったのを覚えている。その年のクリスマスパーティーに招待して、休暇中に一人きりにならないようにしてあげたらどうかと、五十嵐佑真に提案さえした。今思えば、なんて馬鹿げたことだったのだろう。
最初は、本当にただの医者と患者の関係に見えた。五十嵐佑真は難しい処置の後には彼女の様子を見に行き、治療計画をきちんと守っているか確認していた。だが、そのうち奇妙な時間帯に電話がかかってくるようになった。立花杏弥の病状に対する「不安発作」。一人でいることへの恐怖。そして、五十嵐先生にしか与えられないという安心感を求める声。
「彼女には家族とか、友達はいないの?」
五十嵐佑真がパニック発作を起こした彼女をなだめるために駆けつけていったある夜、私は尋ねた。
「家族は彼女の医療費を払うために働き詰めでね」と彼は説明した。
「それに、自分の病気のせいで友人関係を維持できないって言うんだ。誰も理解してくれない、と」
彼がその空白を埋めてあげるなんて、なんて高潔なことでしょう。そして、既婚者の医師を心の支えとして見つけられた彼女は、さぞ都合が良かったことでしょうね。
私はスマートフォンを取り出し、メモアプリを開いて、ずっとつけ続けているリストをスクロールした。佑真が私より立花杏弥を選び、彼女の「緊急事態」のせいで私が後回しにされた回数、九十七回。
そして今、まさに九十八回目になろうとしている。
その皮肉は痛いほどわかっていた。私は養護施設で育ち、愛情のない里親の家を転々とする中で、どうして自分はこんなにも簡単に見捨てられるのだろうと、いつも考えていた。五年前、五十嵐佑真に初めてデートに誘われた時、私は断った。二週間後にまた誘われた時も、断った。
まる一年間、彼は諦めなかった。オフィスにコーヒーを持って現れたり、毎日「おはよう」とメッセージを送ってきたり、何気なく口にした些細なことを覚えていてくれたり。私が古い映画が好きだと言えば、私と会話するためだけに、映画についてあらゆることを学んでいた。食中毒で三日間仕事を休んだ時は、何も聞かずに毎日私のアパートにスープを届けてくれた。
「どこにも行かないよ、水希」
八回目の断りの後、彼はそう言った。
「君が怖がっているのはわかってる。でも僕は、君を置いていった奴らとは違う」
彼が一貫して私を追い続けて一年半、私はようやくデートを承諾した。それでも、私は彼がいつかいなくなるのではないかと待ち構えていた。大学の友人の結婚式で、知り合いがほとんどおらず心細い思いをしていた私に会うため、彼は遠くからわざわざ駆けつけてくれた時、私はようやく、誰かが私を選んでくれたのかもしれない、本当に選んでくれたのかもしれないと、信じ始めた。
なんて愚かで、世間知らずだったのだろう、私は。
午後十時、私は五十嵐佑真に電話をかけた。
「もしもし、どう?」
怒りを押し殺し、何気ないふりを装って尋ねた。
「ちょっと込み入ってて」と五十嵐佑真は言った。その声には疲労が滲んでいた。でもそれは、医療的な緊急事態に対処しているからなのか、それとも、二人の女を天秤にかけているからなのか。
「彼女の心拍リズムがまた不規則なんだ。心臓専門医がもっと検査をしたいと言ってる」
「じゃあ、もうすぐ帰れるの?」
間があった。
「実は、水希、今夜は泊まらなきゃいけないかもしれない。経過観察のために。彼女のような病状の患者を監視なしで放置するのがどれだけ危険か、わかるだろ」
電話を握る手に力が入った。
「泊まるって?」
「病院にだよ、もちろん。当直室で寝て、数時間おきに様子を見られるようにする」
もちろん。まるで他に解釈のしようがあるとでも言うように。
「佑真――」
「埋め合わせは必ずするから。明日の夜、いいだろう?明日は絶対に何も邪魔させない」
「今夜だってそう言ったじゃない」
「わかってる、すまない。でも、立花さんには――」
「立花杏弥には必要なのよ」私は彼の言葉を遮って繰り返した。「いつだって立花杏弥が必要なことばかり」
「水希、頼むからこれ以上、事をややこしくしないでくれ。僕にだって選択肢はないんだ、わかるだろ」
選択肢はない。彼がこれまでに九十七回使ってきたのと同じ言葉。
電話を切った後、私はリビングルームの深まる闇の中に座り込んでいた。今夜を特別なものにするはずだった青いドレスを着たまま。スマートフォンが震え、五十嵐佑真からのメッセージが届いた。
「立花杏弥は一晩経過観察が必要だ。病院を離れられない。明日は絶対に埋め合わせをするから。愛してる」
明日。いつだって明日。
スマートフォンをしまおうとした時、通知が目に入った。SNS。立花杏弥のユーザーネームが、ポストの更新を告げていた。
どうして私は彼女をフォローしているのだろう?一年ほど前、好奇心からだと自分に言い聞かせて、立花杏弥のSNSアカウントをフォローし始めた。夫の思考の多くを占めているらしいその女性を、理解したかったのだ。
彼女のポストをタップすると、血の気が引いた。
画像には、明らかに高級レストランのテーブルが写っていた。ワイングラスの間でキャンドルが揺らめき、二皿の料理が並んでいる。白空レストランのような店で出てくる、高価な料理だ。キャプションにはこう書かれていた。
「大切にされてるって感じさせてくれる特別な人に感謝 #恵まれてる #一人じゃない」
タイムスタンプは二十分前を示していた。
二十分前、五十嵐佑真は立花杏弥の危険な心臓の状態を監視するために病院に泊まり込んでいるはずだったのに、彼女は高級ディナーの写真を投稿していた。
二十分前、私が青いドレスを着て、決して帰ってこない夫を一人で待っている間に、彼女は私の「特別な人」とワインを飲み、食事を楽しんでいたのだ。
手が震えながら、私はその投稿をスクリーンショットした。すでに知っていた、しかし完全には受け入れるのを恐れていたことの証拠。これは医療的な緊急事態でも、医者と患者の関係でも、立花杏弥が一人でいることへの恐怖でもなかった。
これは、私の夫が私に嘘をついていたということだ。またしても。
私はメモアプリを開き、リストをスクロールした。震える指で打ち込む。
「98回目:2月15日、 私が家で青いドレスを着て待っている間、立花杏弥を監視するために病院に泊まると嘘をつき、実際には彼女とデート」。
九十八回。九十八回も、五十嵐佑真は私より彼女を選んだ。
今回は、ただ彼女を選んだだけでなく、私に嘘をついていたという証拠がある。二人の間に実際に何が起こっているのかを隠すために、手の込んだ作り話を丸ごとでっち上げていたという証拠が。
涙で視界がぼやけるまで立花杏弥のSNSのポストを見つめた。ロマンチックなキャンドルのイメージが、焼きごてのように網膜に焼き付く。彼女を大切にされていると感じさせている「特別な人」は、私の夫。私を愛し、大切にすると約束した男。今夜は違うと誓った男。私の目を見て、医療的な緊急事態や一晩の経過観察について嘘をついた男。
これはいつから続いていたのだろう?私は彼女の最近の投稿をさらにスクロールしながら思った。あの九十八回のうち、一体何回が緊急事態を装ったデートだったのだろう?
最悪なのは裏切りそのものですらなく、自分がどれほど愚かだったかということだった。何度、彼の言葉を信じたことか。何度、彼のために言い訳をし、自分が理不尽なのだと自分に言い聞かせ、患者への献身は称賛に値すると自分を納得させたことか。
誰かに選ばれたいと必死になるあまり、彼がずっと他の誰かを選んでいたというすべての兆候を、私は無視してきたのだ。
裏切りの痛みが赤熱した鉄のように心を焼き尽くしたその時、あの馴染みのある鋭い痛みが、突如として私の胃を掴んだ。私は苦痛に身をかがめ、冷や汗が瞬く間に背中を濡らした。今回ばかりは、もう大丈夫なふりはできなかった。全てを放り出して、病院へ行って診てもらうべきだと思った。







