第2章
重い木の扉を押し開け、薄暗い内装へと足を踏み入れる。隅にある小さなステージからはジャズの音楽が流れ、空気はタバコとウィスキーの匂いで濃く満たされていた。客はまばらに点在し、そのほとんどが手元のグラスに集中している。
私はバーカウンターまで歩いていき、高いスツールに腰掛けた。バーテンダーの男は私に背を向け、グラスを洗っている。
「一番強いお酒をいただけますか?」と、かすれた声で言った。
彼が振り返った瞬間、私の呼吸はぴたりと止まった。
『ありえない』
この男……その横顔、顎のライン、眉のアーチさえも……大地に驚くほど似ている。瓜二つというわけではない。けれど、再び心臓を激しく高鳴らせるには十分だった。
「ひどい夜だったみたいだね」。その声は、大地が他の誰にでも向けるような刺々しさがなく、彼よりも温かみがあった。彼はくしゃくしゃの茶色い髪で、黒いTシャツとジーンズを身につけている。右の眉の上には、小さな傷跡があった。
私は目尻の涙を拭う。きっとメイクは崩れてしまっているだろう。
彼は私の前に、琥珀色の液体が入ったグラスを置いた。
「ウィスキー、ニートで」
それからバーカウンターに肘をつき、私の顔をじっと見つめる。
「俺は大輔」
「美月です」
ウィスキーを一口飲むと、喉が焼けるような熱さを感じた。「あなたの……その目……」
彼の目は青ではなく深い茶色だったが、その形が……形があまりにも似すぎていた。
「目がどうかした? 誰かを思い出す?」と、彼は唇の端に微かな笑みを浮かべて訊ねた。
『あなたが彼だったら……』そう心の中で思うだけで、声には出さない。代わりにウィスキーをもう一口あおり、アルコールが血管を駆け巡り始めるのを感じた。
「そうかも」私はようやく言った。「知っていると思っていた、誰かさんをね」
大輔はティッシュの束を私に手渡した。「その男に傷つけられたのか?」
私は笑ったが、それはほとんど泣き声のように聞こえた。「ううん、自分で自分を傷つけたの。絶対に私を愛してくれない人を夢見てたから」
「馬鹿な男だな」と、大輔は素っ気なく言った。
彼を見上げると、薄暗い照明の中で、その顔が影の中に見え隠れする。目を細めれば、アルコールで視界をぼやかせば……
「あなたが彼だったら……」私はほとんど無意識に、その言葉を囁いていた。
大輔の表情が複雑なものに変わる。彼は私の顔を吟味するように見つめ、それからゆっくりと言った。「今夜だけは、君が望む誰にでもなってあげるよ」
アルコールは私の世界を曖昧にし、同時に恐ろしいほど鮮明にした。曖昧になったのは現実との境界線。鮮明になったのは、普段は決して認めようとしない、心の奥底に埋もれた欲望だった。
大輔が私をバーカウンターから立たせようと支えてくれた時、その手は温かく、しっかりとしていた。「静かな場所が必要だな」と彼は言った。その声は深く、どこか懐かしく、それでいて知らない優しさを帯びていた。
『この声の調子……大地が昔、まだ何もかもがこじれてしまう前に、私に話しかけてくれた時の声に似ている……』
彼は私をバーの奥にある小さなボックス席へと導いた。薄暗い照明が革張りのソファに柔らかな影を落としている。ジャズの音楽が、遠い囁きのように外から流れ込んでくる。私はソファに崩れ落ち、世界がゆっくりと揺れるのを感じた。
「座って」大輔は私の隣に腰を下ろした。安心できるほど近く、でも踏み込まれたと感じない程度には遠い、絶妙な距離を保って。
私は目を閉じた。アルコールが、いつもの自分を守る壁を取り払っていく。この薄暗い小さな空間でなら、彼が大地だと偽ることができる。あのリビングルームでの屈辱など、決して起こらなかったのだと、そう思い込むことができた。
「大地……」私は無意識にそう呟き、彼の肩に頭を預けた。「どうして、私が大人になるのを待っててくれなかったの? もう十八歳なのに……」
大輔の体はわずかに強張ったが、私を突き放すことはなかった。それどころか、彼の声はさらに優しくなり、意図的にトーンを低くして言った。「たぶん……あいつはただ、君の未来を台無しにしてしまうのが怖いだけなんだよ」
私は目を開けて彼を見つめた。薄明かりの中でも、彼の瞳の奥に何か深いものが見える。「あなたの声……昔の彼みたいに優しい」。記憶が不意に蘇る。何年も前に大地が私にベッドで物語を読んでくれた時のこと。彼の声は柔らかく、私を守るようで、今夜私に向けられた冷たい権威的な響きとは全く違っていた。
「誰か別の人を重ねてるんだね」と大輔は言ったが、その声色に咎めるような響きはなく、ただ私には読み解けない何かが含まれているだけだった。
「ええ」私は正直に認めた。「おかしいかな?」
「かもな」彼は手を伸ばし、羽のように軽い手つきで私の髪を撫でた。
私たちは静かにそこに座っていた。私の頭は彼の肩に乗り、彼の手は優しく私の髪を撫で続けている。この偽りの優しさの中でなら、今夜の全て――大地の冷たさも、朱音の勝ち誇ったような態度も、客たちの囁きも、ほとんど忘れられそうだった。
けれど、現実はいつだって、最も美しい幻想に容赦なく割り込んでくる。
午前三時、バーの音楽が突然止まった。
「どうしたの?」私は混乱して頭を上げた。
その時、あの声が聞こえた。怒りと焦りに満ちた、大地の声が。
「彼女はどこだ?」
