第3章
大輔は素早く立ち上がったが、その動きは優雅で落ち着き払っていた。「お迎えが来たみたいだね」
ブースのドアが乱暴に押し開けられ、戸口に大地が現れた。スーツは完璧なままだったが、ネクタイは緩み、髪はわずかに乱れ、その瞳は今まで見たこともないような怒りの炎に燃えていた。
私が大輔にもたれかかっているのを見ると、その怒りは瞬時に激怒へと変わった。
「彼女を離せ!」大地がブースに踏み込んできた。
大輔は落ち着き払って立ち上がり、大地の存在感にまったく怯む様子もなかった。「森川さん、ずいぶんとお遅いご到着のようで」
大地の表情がさらに険しくなる。「俺を知っているのか?」
大輔はかすかな、全てを知っているかのような笑みを浮かべた。「かの有名な森川さんを知らない人はいませんよ」
その笑みが、さらに大地を逆上させたようだった。「たかがバーテンダーのくせに」大地の声は氷のように冷たかった。「俺に説教できると思うなよ」
「さあ、どうでしょう」大輔は微笑んだが、その笑みにはどこか危険な響きがあった。「ですが、少なくとも彼女が誰かを必要としていた時、そばにいたのは私ですよ」
大地の拳が固く握られ、本気で殴りかかるのではないかと心配になった。しかしその時、バーのオーナーと運転手らしき男が入ってきた。
「森川さん」オーナーが慎重に口を開いた。「よろしければ、この件は内々で解決させていただけないでしょうか?」
大地は大輔をじっと見つめてから、私に向き直った。「美月、家に帰るぞ」
それはお願いなんかじゃない、命令だった。
立ち上がると、アルコールのせいで足元がおぼつかず、体がぐらついた。大輔が支えようと手を伸ばしたが、それより先に大地が私の腕を乱暴に掴んだ。
「付き合ってくれてありがとう」私は震える声で大輔に言った。
「いつでも」彼は答え、その視線はまっすぐに大地と交わった。「君が必要ならね」
大地は私をバーから引きずり出した。そこにはすでに運転手が待っていた。黒いメルセデスが、街灯の下で獲物を食らうのを待つ獣のように鈍く光っていた。
車のドアが乱暴に閉められ、私たちはこの狭い空間に閉じ込められた。窓の外を街の夜景が流れ、ネオンの光が激昂した大地の表情をちらちらと照らし出す。
「二度とあんな場所に行くな!」車内に彼の怒声が響き渡った。
酔いが覚め始め、代わりに反抗心に満ちた冷静さが頭をもたげてきた。「どうして? あなたにはもう朱音さんがいるじゃない」私はわざと彼の婚約者の名前を口にした。彼を傷つけたかったのだ。「それに、大輔さんはあなたより優しい……」
これは予期せぬ効果をもたらした。大地の顔が極度に暗くなり、その瞳に今まで見たことのない何かがきらめいた。それは、嫉妬だろうか?
「あんな奴、何者でもない!」大地が言った。「ただのバーテンダーだ!」
「でも、彼は私の話を聞いてくれる」私は言い返した。「命令ばかりするどこかの誰かさんと違って」
大地が突然こちらを向いた。その表情は恐ろしかった。薄暗い車内では、彼は怒っているようにも、傷ついているようにも見えた。まるで、追い詰められた獣のようだった。
「お前は分かってない、美月」彼の声が低く、危険な響きを帯びた。「自分が何をしているのか、まるで分かっていない」
「じゃあ説明してよ!」私は反論した。「どうして朱音さんと結婚するくせに、私に自分の人生を生きることを許してくれないの!」
彼は答えず、ただ拳を握りしめて夜景を睨みつけていた。街灯の下、彼の顎のラインが緊張で硬くなっているのが見えた。
車内の沈黙が、重く危険なものになっていく。大地から何か強烈な感情が発せられているのを感じるが、その正体が分からない。所有欲? それとも、何か別のもの?
「お前はあいつのことなど何も知らない」大地がこちらを向いた。その瞳には、読み取れない何かが宿っていた。「あいつが本気でお前のことを気にかけているとでも思うのか?」
その言葉は胸に突き刺さったが、彼の前で弱さを見せるのは嫌だった。「少なくとも、私が気持ちを告白した後に、人前で私を辱めたりはしなかったわ」
大地の顔がさらに青ざめた。「美月……やめろ……」
「やめてって、何を?」まだ体内に残るアルコールが、私を大胆に、無謀にさせていた。これまでの何年もの痛み、苛立ち、混乱のすべてが、一気に沸騰した。「あなたに振られたことを思い出させないでってこと? あなたが私にしたことから目を逸らさせないでってこと?」
彼が答える前に、私が気力を失う前に、私は身を乗り出し、彼の唇に自分の唇を叩きつけるように重ねた。
一瞬、大地の体が完全に硬直した。彼は私を突き放そうとするかのように両手を私の肩に置き、理性を保とうと葛藤しているのが伝わってきた。
だが、その瞬間、彼の中で何かがぷつりと切れた。
決壊したダムのように、彼の抵抗は崩れ去った。髪に指を絡め、私をぐっと引き寄せると、息もできないほどの、飢えたような激しさでキスを返してきた。それは優しさなどかけらもない。獰猛で、すべてを飲み込むような、何年もの間抑圧してきた感情をこの一瞬に注ぎ込んだキスだった。
「美月」彼は私の唇に触れるほど近くで、途切れ途切れに囁いた。「ダメだ……俺は……」
けれど、彼の行動は言葉とは裏腹だった。その手は私の背中を彷徨い、唇は私の首筋を探り当て、彼が自制しようと震えているのが分かった。
「本当はこうしたいんでしょ」私は彼のシャツを握りしめながら囁いた。
彼は呻いた。純粋な苦悶の声だった。額を私の額に押し付け、目を固く閉じている。「でも、これは間違ってる、美月。俺はお前を守るべきなんだ、こんな……」
「私があなたを愛しているみたいに、私を愛しちゃいけないってこと?」私は彼の唇をかすめるようにして挑発した。
その一言が、彼を完全に壊した。彼は再び、今度はもっと激しくキスをしてきた。ついに彼の自制心は砕け散った。街の光が流れ去る車の暗闇の中で、私たちはもう二度と戻れない一線を越えてしまった。
やがて車が森川家の私道で止まった時、私たちは離れて座り、二人とも荒い息をしていた。大地の髪は乱れ、唇は私たちのキスで腫れ、その瞳は欲望と後悔が入り混じった野生的な光を宿していた。
私は家に向かって歩き出した。大地はまだ窓の向こう、車内に座ったまま、遠ざかる私の背中を見ていた。暗闇の中でも、彼の瞳に宿るあの複雑で危険な感情と。そして、私たちがたった今してしまったことの重みが、ひしひしと伝わってきた。
