第1章

浜野の海岸線に佇む礼拝堂。青海の風が白い砂浜を吹き抜け、私の長いウェディングベールを揺らす。私はチャペルの入り口に立ち、白い薔薇のブーケを握りしめている。オーダーメイドのウェディングドレスの下では、妊娠四ヶ月のお腹がはっきりと膨らんでいた。

今日は、私たちの晴れの日。五年間の交際が、ようやく実を結ぶ日だ。

『蓮が、祭壇で私を待っているはず』

深呼吸をして、私はチャペルに足を踏み入れた。ウェディングマーチが鳴り響いた瞬間、百人ほどの来賓が一斉に立ち上がり、その視線が私一人に集中する。ドラムのように激しく鳴り響く心臓の音を感じながら、私は微笑んで祭壇へと向かった。

だが、祭壇にたどり着いた瞬間、私の世界は音を立てて崩れ落ちた。

空っぽ。

祭壇の前には何もない。蓮も、花婿もいない。ただ、気まずそうな顔をした司祭と、死のような沈黙があるだけだった。

「蓮はどこ?」私の声がチャペルに響き渡る。どこか遠くから聞こえてくるような、他人事のような声だった。

最前列に座っていた真、蓮の親友で、今日の介添人――が、青ざめた顔で首を横に振る。「彩花、俺……わからないんだ。今朝からずっと連絡が取れない」

私はスマートフォンを取り出し、蓮の番号にかける。

「おかけになった電話は、電源が入っていないか……」

来賓たちがひそひそと囁き始める。そのざわめきが、まるで海の波のようにチャペル満たしていく。

「信じられない、こんな場所で夫が逃げるなんて初めて見たわ」

「あのお腹を見てよ、絶対できちゃった結婚ね」

「まあ、捨てられちゃったのね」

顔から血の気が引いていくのを感じる。ウェディングドレスが急に鉛のように重く感じられ、息ができないほど体を締め付けた。

世界がぐらぐらと揺れ始める。妊娠四ヶ月の赤ん坊、百人の来賓、そして悪意に満ちた囁き声。そのすべてが私にのしかかり、息もできなくなる。

「皆さん、本当に申し訳ありません……」声が震える。「結婚式は……中止に、します」

そう言い終えると、私は背を向けてチャペルから逃げ出した。背後で、さらに大きなざわめきが爆発する。

「かわいそうに」

「男って本当に信用できないわね」

「あの子、どうするのかしら」


一時間後、私は一人で座り込んでいた。地面に散らばる花びらが、まるで私の砕けた心のようだ。

真が複雑な表情で近づいてくる。「彩花、蓮がどこに行ったのか、本当にわからないんだ。あいつらしくない」

「らしくない?」私は冷たく笑った。「じゃあ、何が彼らしいっていうの? 五年間、彼のことを知っているつもりでいた結果がこれよ?」

「何か急用があったのかも……」真が何を言おうと、もう聞きたくなかった。

私は駐車場へ歩き、自分の車に乗り込んだ。

夕暮れの青海コーストハイウェイは、胸が張り裂けそうなほど美しい。夕日が海全体を黄金色に染め上げ、波が耳をつんざくような轟音を立てて崖に打ち付けている。けれど私の目には、そのすべてが嘲笑にしか映らない。

泣きながら車を走らせる。涙で視界が滲む。あの言葉が、頭の中で何度も響いていた。

濡れた手の中でハンドルが滑る。涙を拭い、集中しようとするが、心の痛みが潮のように押し寄せてくる。

ラジオのパーソナリティの声が聞こえてきた。「浜野地区では今夜、濃霧注意報が発令されています。運転には十分ご注意ください……」

『いっそ……消えてしまうのも、悪くないかもしれない』

一度その考えが浮かぶと、それは毒蛇のように心に絡みついた。誰も私がいなくなっても悲しまないだろう。蓮はもう私を捨てた。両親はヨーロッパを旅行中で、今日の結婚式のことさえ知らない。友人たちは、人生最大のみじめな姿を目撃したばかり。

そっとお腹を撫でる。「赤ちゃん、ママはこの世界にいるべきじゃなかったのかもしれない。私たち、二人とも」

霧はどんどん濃くなり、視界はますます悪くなっていく。私はスピードを落としたが、心の奥底で声がする。『スピードを上げて。この苦しみをすべて終わらせるの』

その時、目の前に突然、二つの眩いヘッドライトが現れた。

とっさにハンドルを切ったが、もう遅かった。巨大な衝突音が、海岸線全体に響き渡った。

世界が、瞬時にスローモーションになる。

私の車が横転を始める。ガラスが砕け、金属が捻じ曲がる。割れたフロントガラス越しに、崖と、その下に荒れ狂う波が見えた。

『私、死ぬんだ』

不思議と、その瞬間に感じたのは恐怖ではなく、一種の安堵だった。

『赤ちゃん……ごめんね、ママ……』

車が落下を始め、海水が私に向かって押し寄せてくる。私は目を閉じ、最後の瞬間を待った。

氷のように冷たい海水が車内に流れ込み、私の体を包み込む。意識が朦朧としていく中で、最後の思考だけははっきりとしていた。

『もし来世があるのなら、二度とこんな愚かな生き方はしない』

暗闇が、すべてを飲み込んだ。


天窓から、目が眩むほどの陽光が差し込んでいる。

はっと目を覚ますと、私は工房のロフトにあるトイレの便座に座っていた。手には、妊娠検査薬を握りしめている。

二本の線。

『マジで、これって……どういうこと?』

あたりを見回す。ここは私のスタジオ、私の家だ。壁には未完成の挿絵作品が掛かり、机の上には色鉛筆が散らばっている。隅に置かれたラベンダーの鉢も、まだ生きている。

これは三ヶ月前の光景。私が初めて妊娠に気づいた、あの日の午後だ。

立ち上がると、足に力が入らず、ふらついてしまう。妊娠検査薬が乾いた音を立てて床に落ちた。

前の人生の記憶が、津波のように押し寄せてくる。結婚式での屈辱、来賓たちの囁き声、青海コーストハイウェイでの交通事故、肺が海水で満たされる息苦しさ……

「彩花? 上でずいぶん長いけど、大丈夫か?」階下から、心配そうな蓮の優しい声が聞こえてくる。

心臓が激しく脈打つ。あの声。かつて深く愛し、そして最後には私を裏切った男。

「大丈夫!」と叫び返したが、声が震えている。

妊娠検査薬を拾い上げ、強く握りしめる。二本の線。三ヶ月前。私にはまだ、やり直すチャンスがある。

鏡の前に立ち、自分を見つめる。鏡に映るのは、まだ裏切りと死に打ちのめされる前の、三ヶ月前の私。だが、その瞳だけは、もう以前とは違っていた。

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