第3章

午前一時、浜野の桜通りに人影はなかった。私はヘッドライトを消し、喫茶店の向かいにある小さな路地に車を停めた。フロントガラス越しに、見慣れたあのガラス扉を凝視する。

有栖の死、深夜の来訪者、そして蓮が抱える秘密。すべての手がかりが、この喫茶店へと繋がっていた。今夜こそ、ここで何が起きているのか、この目で確かめてやる。

まさにその時、一台の黒いSUVがゆっくりと店に近づいてきた。店の前でSUVが停まり、ドアが開くと、長身のブロンドの女性が姿を現した。

薄暗い街灯の光に照らされても、彼女が美しいことは一目でわかった。黒のトレンチコートを身にまとい、しきりに周囲を警戒している。

喫茶店のドアが開き、蓮が姿を見せた。

次の瞬間、私は心臓が凍りつくような光景を目の当たりにする。二人が、抱き合っていた。

それは、ありふれた抱擁ではなかった。まるで相手が消えてしまうのを恐れるかのように、互いを強く引き寄せ合う。そんな抱擁だった。女性は蓮の肩に頭を預け、蓮の手がその髪を優しく撫でている。

震える手で、私は必死にスマートフォンを探り当てた。カメラを起動し、二人に向ける。手は震えていた。それでも、この光景をすべて記録しなければならない。カシャッ、静かな車内で、そのシャッター音はひどく鋭く響いた。

喫茶店のガラス窓越しに、温かなオレンジ色の光が、二人のシルエットを妙に親密なものとして映し出していた。

待て……

目を凝らすと、蓮が羽織ったジャケットの背中に、白い三文字が浮かび上がっていた。

『警視庁』

『警視庁……そういうことか。ずっと疑ってはいたが、この目でその三文字を見てしまうと、心臓がどうしようもなく高鳴った。これで、すべて辻褄が合う』

義母の死、謎めいた深夜の密会、はぐらかすような返事。すべてのパズルのピースが、ついにカチリと嵌まった。

蓮が女性の両手を取り、二人は向き合った。まるで、何かを誓い合っているかのように。

何を話しているのかはっきりとは聞こえない。だが、女性の表情から、彼女が不安がり、どこか怯えていることだけは読み取れた。

「……保護プログラム……残された時間は少ない……」唇の動きから、いくつかの単語を拾うことができた。

『保護プログラム? 誰を護るって?』

「……もし奴らに彼女が見つかったら……」

「誰にも傷つけさせはしない……」

だが、蓮の固い口調と彼女を庇うような立ち姿から、二人の関係が単純なものではないことは間違いなかった。

奴には、もう一つの顔と、もう一つの人生、そして、もう一人の女がいたのだ。

二十分ほど経った頃、女が帰る支度を始めた。蓮は車まで女を送り、最後にもう一度、彼女を抱きしめた。

その抱擁は長く続いた。女が爪先立ちになり、蓮の頬にキスを落とすのが、この目にはっきりと見えた。

『もう、たくさんだ!』内心で怒りが爆発したが、私は身をかがめたまま動かなかった。

黒のSUVが走り去ると、蓮は店の中へと戻っていった。ガラス窓越しに、蓮が店内を行き来し、やがてスマートフォンを取り出して誰かに電話をかけるのが見えた。

今が、絶好の機会だ。

蓮がまだ店内にいるうちに、私はエンジンを始動させ、家へと車を飛ばした。奴が本当に店に泊まるつもりなら、私物を漁る時間は十分にあるはずだ。

アパートに戻ると、私は寝室に直行した。蓮のクローゼット、机、ナイトスタンド、隅から隅まで探し出してやる。

クローゼットの一番奥に隠された金庫の中から、隠し持っていた携帯電話といくつかの書類を見つけ出した。

金庫の暗証番号は、私の誕生日だった。この事実に、私はさらに怒りを覚えた。私の誕生日を使って、奴は自分の秘密を守っていたのだ。なんという皮肉だ!

隠し持っていた携帯電話には、多くの通話記録が残っていた。そのほとんどが「M」という連絡先とのものだった。メッセージに目を通すと、衝撃的な内容が飛び込んできた。

「美咲、明日の夜、計画通りに進めてくれ」

「証人保護プログラムは発動済みだ。君は安全だ」

「危険があれば、すぐに連絡を」

美咲……あのブロンドの女は、美咲という名前なのか。

ファイルフォルダーの中からは、さらなる証拠が見つかった。「特別捜査官 黒木蓮」とはっきりと記された捜査局のID。

そして、美咲の写真も一枚あった。裏には赤いインクでこう書かれていた。「早乙女美咲 重要証人」。

重要証人?

私の手は、さらに激しく震えた。蓮が連邦捜査官であるだけでなく、美咲はある事件の重要証人だったのだ。そして明らかに、蓮が彼女の保護を担当していた。

私がこのすべてを理解しようと努めていると、ガレージのドアが開く音が聞こえた。蓮が帰ってきた!

私は慌ててすべてを元の場所に戻したが、隠し持っていた携帯電話だけはまだ手に握りしめていた。

「彩花? まだ起きてるのか?」階下から蓮の声がした。

私は急いで携帯電話をパジャマのポケットに突っ込み、ベッドに飛び込んで眠ったふりをした。心臓は、破裂しそうなほど激しく鼓動していた。

階段を上る足音が、どんどん近づいてくる。私は目を閉じ、呼吸を整えようとしたが、頭の中は先ほど発見した証拠でいっぱいだった。

警視庁。証人保護。早乙女美咲。

蓮は寝室に忍び足で入ってくると、しばらくベッドのそばに立っていた。彼の視線が私の顔に注がれているのを感じた。それから、彼は優しく私の額にキスをした。

「ぐっすりだな」と彼はそっと呟いた。

そのキスは、私に向けられたものなのか、それとも偽りの彩花に向けられたものなのか? 真実を知らず、闇の中に置かれている彩花に。

蓮がシャワーを浴びにバスルームへ行き、水の音が私の寝返りの音をかき消した。私は慎重に隠し持っていた携帯電話を取り出し、その中身を調べ続けた。

さらに多くのメッセージ、通話記録、そしていくつかの暗号化されたファイル。内容のほとんどは理解できなかったが、一つだけはっきりしていた。蓮と美咲の関係は、私が想像していたよりもはるかに複雑だということだ。

しかし、それがどんな仕事上の関係であれ、一つだけ確かなことがある。奴は何年もの間、私に嘘をつき続けていた。

美咲がどんな重要な情報を握っているのか、彼らがどんな保護任務を遂行しているのかはわからない。だが、私が完全に騙されていたことはわかった。

シャワーの音が止んだ。もうすぐ蓮が出てくる。私は急いで携帯電話を隠し、再び眠ったふりを続けた。

彼が再び隣に横たわった時、私はすべてを問い詰めたくて仕方がなかった。なぜ嘘をついたのか、美咲は一体誰なのか、私たちの関係は奴にとって何なのか、と。

だが、私はそうしなかった。

そして、心の中にはもう一つの声が問いかけ続けていた。もし蓮が本当に重要な証人を保護していて、その仕事が本当に危険なものだとしたら、奴が私に身分を隠していたのには、それなりの理由があったのではないか?

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