第3章

そっと三階の物置の引き戸を開けると、中には古い家具や段ボール箱が山積みになっており、空気中には古びたカビの匂いが充満していた。

薄暗い部屋は静まり返っており、聞こえるのは私の切迫した呼吸音だけだ。

私は物置の中をくまなく探し、隅々までひっくり返して、あの銀色のお守りの鈴を探した。

しかし、埃と古物以外には何もない。

諦めきれず、私は三階全体を探し回ることにした。廊下から隅という隅まで、見逃した場所は一つもなかった。

鈴はまるで忽然と消えてしまったかのように、どうしても見つからない。

諦めかけたその時、客間から本をめくる音が聞こえてきた。

ドアを開けると、淡い色のシャツを着た若い男性が畳の上に座っており、目の前には数冊の分厚い本とノートが広げられていた。

「健太?」

私は驚いて声を上げた。

田中健太は顔を上げ、眼鏡を押し上げながら、穏やかな笑みを浮かべた。

「秋子、どうしてここに? 外出しているのかと思ったよ」

「ずっと家にいたよ」

私は少し戸惑った。

「いつ来たの?」

「午後三時ごろかな」

健太は手にしていたノートを閉じ

「卒業論文のことで相談があって来たんだ。君のお父さんが、君は外出中だからここで待つ ようにって」

私は呆然とした。

午後三時、私は確かに庭で彩也香と話していた。どうして外出中だなんてことになるんだろう?

「お父さんが、私が外出してるって?」

「ああ、村へ民俗資料の収集に行ったとね」

健太は立ち上がり、服の埃を払った。

「だから、先にここで僕が集めた遠野の伝説に関する資料を整理して、君が帰ってくるのを待っていたんだ」

私の心に奇妙な感覚が湧き上がってきた。

父はなぜ私が外出していると言ったのだろう? それとも、父は私と彩也香が庭にいるのを見ていなかったのだろうか?

「そうだ」

健太は何かを思い出したように、真剣な表情になった。

「聞いたかい? 村でまた何かあったらしい」

「何かって?」

「昨日の夜、村の入口にある田山さんのところの末娘が、神社の裏で白い服の女が木にぶら下がっているのを見たって」

健太は声を潜めた。

「村の年寄りたちは、数日前に自殺したあの女が、首吊り幽霊になったんだって言ってる」

私は全身が震えた。

「首吊り幽霊?」

健太は首を振った。

「でも、たぶん子供の見間違いか、村人たちの想像だと思う。こういう怪談話は遠野じゃよくあることだから」

私は今日彩也香からもらったお守りの鈴を思い出し、心に不安が込み上げてきた。

「健太は、この世に幽霊がいるって信じる?」

「もちろん信じないさ」

彼は笑った。

「僕は民俗学を学んでいるんだ。こういう伝説の裏には、大抵合理的な説明がつく。心理的な暗示だったり、集団幻覚だったり、あるいは何かの自然現象が誇張されたりとかね」

その時、私は鈴のことを思い出した。

「そうだ、銀色の小さな鈴を探してるんだけど、見なかった?」

健太の目が輝き、ポケットからあのお馴染みのお守りの鈴を取り出した。

「これのことかい? さっき廊下で拾ったんだ」

「それよ!」

私は興奮して鈴を受け取り、手のひらで強く握りしめた。さっきまでの、大切なものを失ったようなパニックが一瞬で消え去った。

「ずいぶん大事そうだな」

健太は興味深そうに私を見た。

「何か特別な記念品なのかい?」

「うん、すごく大切な友達からもらったの」

私は鈴を再び首にかけ、それがもたらす安心感を感じた。

「じゃあ、ちゃんとしまっておかないとね」

健太は机の上の資料を片付けながら言った。

「君は早く休んだ方がいい。僕は今日たくさんの資料を見つけたから、今夜もう一度整理して明日教えるよ」

私は頷き、彼に見送られながら客間を後にした。

いずれにせよ、鈴が私の元に戻ってきた。それだけでずいぶんと安心できた。

階下へ降りて自室に戻ろうと、物置の前を通りかかった時、無意識に中をちらりと見た。

私の足が、その場で凍りついた。

薄暗い物置の奥に、人影が静かに立っていた。入口に背を向けて。

その影は白い服を着て、長い髪を肩に垂らし、まるで彫像のように微動だにしない。

心臓が激しく脈打ち、私は無意識に胸元の鈴を握りしめていた。

「だ……誰、そこにいるの?」

私は震える声で尋ねた。

その人影が、ゆっくりとこちらを振り向いた。

紙のように真っ白な顔が、私の目に飛び込んできた。両目は虚ろで、口はわずかに開かれ、黒い洞穴のような口腔を覗かせている。最も恐ろしいのは彼女の首——そこには深い紫色の締め跡がくっきりとついており、まるで縄が皮膚に残した痕のようだった。

「あ……あなた……」

私の声は震え、ほとんど聞き取れなかった。

その女の口角がゆっくりと吊り上がり、不気味な笑みを浮かべた。

首吊り幽霊。

彩也香の言葉が、瞬時に脳裏に蘇る。

『首を吊って死んだ人は怨念が一番強いの。その魂は近くを彷徨って、身代わりを探すのよ』

私の両足は言うことを聞かずに震え始めたが、生きようとする本能が私を突き動かし、勢いよく振り返って物置から飛び出した。

「逃げないでよぉ……」

背後から、女のしゃがれた声が聞こえる。

「私と、おしゃべりしましょ……」

私は必死に階段の方へ走る。足音が、がらんとした廊下に響き渡った。

木製の床が私の足踏みで「ギシギシ」と音を立て、心臓の鼓動は足音よりも大きく鳴り響いていた。

早く階下へ!

一息に階段のところまで駆けつけ、躊躇なく下へ向かって駆け下りた。

一段、二段、三段……

私は足を止め、何かがおかしいと感じた。

これだけ下りたのに、どうしてまだ一階に着かないのだろう?

携帯を取り出して懐中電灯の機能をオンにすると、微かな光が周囲の環境を照らし出した。

ここはまだ三階だ!

廊下の突き当りにある、見慣れた物置の引き戸も、壁に掛けられた色褪せた山水画もはっきりと見える。

ありえない。私はずっと下へ走っていたはずなのに!

「狐に化かされた……」

は思わず口にした。子供の頃に聞いた怪談話を思い出す。

まさか、ここに閉じ込められたの?

パニックが瞬く間に私を飲み込み、私は再び必死に下へ走った。しかし、どれだけ走っても、階段には終わりがないように思えた。

立ち止まって確認するたび、部屋番号はやはり3Fのままだった。

壁に寄りかかって大きく息をつく。手のひらは汗でびっしょりだ。

「お守りの鈴……そうだ、私にはお守りの鈴がある!」

急いで胸元に手を伸ばしたが、空を切った。

赤い紐が切れて、鈴がまたなくなっている!

いつ落としたの? さっきまで確かに首にかけていたのに!

「クフフフフ……」

あの気味の悪い笑い声が、廊下の奥から聞こえてくる。だんだん近くなってくる。

私は歯を食いしばり、無理やり自分を落ち着かせた。

どこかに隠れるか、誰かに助けを求めなければ。

そうだ、健太! 彼はまだ客間にいる!

私は深く息を吸い、慎重につま先立ちで、廊下を客間の方へと移動した。

一歩一歩が羽のように軽く、物音一つ立てないように気を付けた。

背後の笑い声は遠くなったり近くなったりして、私の神経を切れそうな琴線のように張り詰めさせた。

ようやく客間の前にたどり着き、そっと引き戸を開ける。

部屋の中は真っ暗だった。

「健太?」

私は声を潜めて呼びかけた。

「健太、いるの?」

返事はない。

携帯のライトをつけ、光が部屋全体を掃った。

畳の上には誰もいない。さっき健太が整理していた資料もなくなっている。それどころか、あの本やノートさえも跡形もなく消えていた。

まるで、ここに誰も来たことがなかったかのように。

「ありえない……」

私は喃語のように呟いた。

さっき、確かに彼と話した。彼は鈴も見つけてくれたのに……。

待って、鈴!

もし健太がそもそも存在しなかったとしたら、誰が私のために鈴を見つけてくれたの?

恐ろしい考えが、私の脳裏に浮かび上がった。さっきの健太は、もしかして、本物の人間じゃなかったのでは?

私の手が激しく震え始めた。

健太までが偽物だったとしたら、私は何を信じればいいの?

「ギシ……」

背後から、足音がした。

私は勢いよく振り返る。白い服の女の幽霊が部屋の入口に立っており、その蒼白な顔には得意げな笑みが浮かんでいた。

「みーつけた……」

彼女はゆっくりと私に歩み寄ってくる。

「どうして逃げるの? 一緒に遊んだら楽しいのに……」

私は部屋の隅まで後ずさり、壁に背をつけた。もう逃げ場はない。

「な……何が望みなの?」

私は震えながら尋ねた。

「私が欲しいのは……」

彼女は首を傾げた。その首の締め跡が、携帯の光の下でひときわ禍々しく見える。

「あなたの顔よ」

彼女が両手を挙げると、その指の爪が長く鋭く、灯りの下で冷たい光を放っているのが見えた。

「あなたは若くて、綺麗で、私があなたの顔を手に入れたら、あの薄情な男も私のところに戻ってくるはず……」

お守りの鈴!

お守りの鈴を見つけないと!

それが、今の私にとって唯一の希望!

「待って!」

私は突然叫んだ。

「私のお守りの鈴がどこにあるか知らない?」

女の幽霊は足を止め、顔に困惑の色を浮かべた。

今だ!

彼女が呆気に取られたその一瞬を突き、私は部屋の隅から入口へと突進した。

彼女が我に返った時には、私はすでに客間を飛び出していた。

あの銀色の鈴を見つけなければ。

どこに落ちていようと、三階中をひっくり返すことになろうと、私はそれを見つけ出す。

それが、私が生き延びるための唯一のチャンスなのだ。

背後から女の幽霊の怒りに満ちた金切り声が聞こえたが、もう構ってはいられなかった。

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