第4章
三階の踊り場で、私はお守りの鈴を探し回っていた。スマホの微かな光が、薄暗闇の中で揺らめく。
踊り場のスペースは広くない。壁の隅、階段の隙間、手すりの下と、ほとんどあらゆる場所をひっくり返すように探したが、何もない。
鈴はまるで、忽然と消えてしまったかのようだった。
私は絶望して階段にへたり込み、両腕をだらりと横に垂らした。
お守りの鈴がなければ、あの白い服の女の幽霊にどう立ち向かえばいい?
「ドン、ドン、ドン……」
階下から、ゆっくりとした重い足音が聞こえてきた。
すぐに警戒する。この音は二階からで、しかも上に向かって移動してきている。
待てよ、あの女の幽霊は移動する時、音を立てない。幽霊のようにふわりと漂っているだけだ。
この足音は……
私は立ち上がり、そろそろと二階と三階の間の階段の曲がり角まで移動し、下を覗き込んだ。
「秋子、君か?」
聞き覚えのある男の声が階下から聞こえた。
田中健太!
心に歓喜が込み上げ、危うく泣き出しそうになった。
「健太! 私、ここにいる!」
私は大声で応え、同時にスマホの画面をつけて階下へと駆け足で向かった。
助けが来た!
健太ならきっと鈴を見つける手伝いをしてくれる。少なくとも、この恐ろしい三階から連れ出してくれるはずだ。
しかし、二階の踊り場までたどり着いた時、足音は突然消えていた。
スマホで階下を照らすが、がらんとした階段には誰もいない。
「健太? どこにいるの?」
私は戸惑いながら尋ねた。
「私を探しているのか?」
声は、すぐ背後から聞こえた。
私の血が、瞬時に凍りついた。
背後に立っていたのは健太ではなく、あの白い服の女の幽霊だった。彼女は例の虚ろな目で私を見つめ、口元に不気味な笑みを浮かべている。
私は問答無用で身を翻し、階上へと駆け出した。
転がるように三階へと駆け上がると、背後から女のからかうような笑い声が聞こえる。まるで私の無駄な足掻きを嘲笑っているかのようだ。
「クフフ……逃げなさい、もっと逃げなさい……」
私は必死に上へ、上へと駆け上がった。一段、二段、三段……。
だが、どれだけ走っても、永遠に三階から抜け出せない。
以前と同じように、この奇妙なループに囚われてしまったのだ。
ついに体力が尽き、私は息を切らしながら階段に座り込むと、いっそ抵抗を諦めた。
「来いよ!」
私は誰もいない階段に向かって叫んだ。
「あんたと刺し違えてやる!」
階下からカサカサという音が聞こえ、そして静寂に包まれた。
あの女の幽霊がどこへ行ったのか、少し気になって数歩下りてみた。
その時、階下から誰かが懐中電灯で私を照らした。
「秋子? どうしてまだここにいるんだ?」
またしても田中健太の声。だが、今度はもう騙されない。
「あんたは誰?」
私は警戒しながら尋ねた。
「本物の健太はどこ?」
「僕だよ、田中健太だ」
彼は上がってきて、眼鏡を押し上げた。
「君の叫び声が聞こえたから、何があったのか見に来たんだ」
私は彼をじっと見つめ、綻びを探す。
彼は確かに本物の健太のように見えた。同じ眼鏡、同じ穏やかな表情、話し方の調子までそっくりだ。
「そうだ、さっき階下でこれを拾ったんだ」
彼は懐から布に包まれた小さな物を取り出した。
「君のお守りの鈴だろう?」
布包みを受け取ると、中には確かにあの銀色の鈴が入っていた。
だが、何かがおかしい……。
目の前の「健太」を注意深く見つめていると、脳裏にある考えが閃いた。
「健太、じゃない……」
私はゆっくりと口を開いた。
「彩也香、あなたなの?」
目の前の「健太」は一瞬虚を突かれたようになり、それからその姿がぼやけ、変化し始めた。
背の高い男性の輪郭は縮んでいき、水色のワンピースを着た小柄な女の子になった。
彩也香が私の前に立ち、苦々しい笑みを浮かべている。
「バレちゃったね、お姉ちゃん」
私は衝撃を受けて彼女を見つめた。
「あなたは最初から、人間じゃなかったの?」
彩也香は頷いた。
「黙っててごめんなさい。でも、ただお姉ちゃんを守りたかっただけなの。さっきの女の幽霊の注意は私が別の場所に引いておいたけど、それも一時しのぎだから」
「あなた、一体何者なの?」
私は尋ねた。心の中は複雑な感情でいっぱいだった。
「私は……」
彩也香は一瞬ためらった。
「私は、秋子お姉ちゃんの妹だよ」
彼女の言葉が終わらないうちに、階下から突然、陰鬱な女の声が響いた。
「見つけたわよ……」
あの白い服の女の幽霊が、二階の踊り場に現れた。蒼白な顔は怒りに満ちている。
「なるほどね。どうりでずっと近くに別の霊体がいると感じていたわけだ」
女の幽霊の視線が彩也香に突き刺さる。
「たかが座敷童子が、私の邪魔をする気?」
「お姉ちゃんを傷つけさせたりしない」
彩也香は私の前に立ちはだかる。その小柄な体から、強い守護の意志が放たれていた。
「どきなさい、これは私たちだけの問題よ」
女の幽霊は冷笑した。
「今すぐ立ち去るなら、命だけは助けてあげる」
「無理な相談ね」
彩也香は一歩も引かない。
私の心に温かいものが込み上げてくる。彩也香が何者であれ、私を守るためにこんな危険に立ち向かってくれている。
「ならば、そいつと一緒に魂ごと消し飛ぶがいいわ!」
女の幽霊が突如両腕を伸ばした。ゴムのように伸びた腕は瞬く間に彩也香の目の前に達し、その首を強く締め上げる。
「彩也香!」
私は思わず叫んだ。
彩也香は苦しそうにお守りの鈴を掲げた。銀の光がきらめくと、女の幽霊の腕がたちまち黒い煙を上げ始める。まるで強酸に腐食されたかのようだ。
「あぁ——ッ!」
女の幽霊は苦痛に叫びながら手を離し、その姿が瞬時に消え失せた。
廊下に妖しい風が吹き荒れ、気温が急激に下がる。
私がほっと息をつく間もなく、突然、背筋に冷たいものが走った。
女の幽霊が私の背後に出現し、氷のように冷たい手で腕を掴まれた。
「そいつをそんなに守りたいなら、そいつがお前のために死ぬ様を見ているがいいわ!」
私は女の幽霊の前に引きずり出された。彼女が鋭い歯の並ぶ口を大きく開けると、生臭い息が顔に吹きかかる。
彩也香が助けに来ようとするが、距離が遠すぎて間に合わない。
とっさの判断で、私は勢いよくしゃがみ込み、女の幽霊の腹部に突進した。
「ドンッ!」
私の頭が壁に激しく打ち付けられ、激痛で気を失いそうになった。
いつの間にか、女の幽霊は私を廊下の突き当たりまで引きずっていたのだ。
必死に意識を保つと、自分の両手がまだ女の幽霊に固く掴まれていることに気づいた。
さらに奇妙なことに、女の幽霊の腕がなんと百八十度ねじれており、その体の在処を見ることができない。
「どうりでずっと正体を現そうとしないわけだ……」
女の幽霊の声には驚きが混じっていた。
「お前、まさか……」
彼女は、何を見たというのだろうか?
