第10章

「星ちゃんが……まだ、あいつらの手の中に……」

杉山夕晴の顔は、死人みたいに青ざめていた。ひび割れた唇が小刻みに震える。

十月十日、身を削って産んだ娘。

生きる理由は、それだけだった。

江崎渚の手を振りほどき、夕晴は外へ飛び出す。

渚は血の気のない横顔を見つめ、苛立ちを拳に込めて門框へ叩きつけた。止めたい。けれど、止められなかった。

タクシーが、橘邸のアイアンゲートの前で止まる。

そこはかつて、夕晴にだけ温もりを与えてくれた「家」だった。

今では、底なしの痛みへ落とす奈落――。

夕晴は鉄門の外に膝をつき、何度も何度も叩いた。喉が潰れた声で叫ぶ。

「娘を返して! 橘陸斗! ...

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