46、

橘謙人の動きがぴたりと止まり、首だけで振り返ると、扉のほうへ獣じみた低い唸り声を叩きつけた。

「消えろ!」

扉の向こうのノックが一拍止まり、次の瞬間、震えを噛み殺した男の声が入り込む。

橘謙人の腹心、橘武司。ベータの戦士だ。

「アルファ。本日の長老会は、必ずご出席とおっしゃっていました。車はすでに下で待機しています」

橘謙人は、押さえつけたままの杉山夕晴を睨み据える。瞳の奥で渦巻いていた猩紅が、ゆっくりと引いていく。理性が、獣性を押し戻した。

息を深く吸い込み、彼はゆっくりと身体を起こした。

「運がよかったな」

背もたれに掛けてあった黒いシャツを引っ掴み、肩にひっかける。焦り...

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