50、

足音が、次第に近づいてくる。

杉山夕晴は全身を震わせ、ほとんど顔を橘陸斗の胸元へ埋めていた。

「橘陸斗……こんな姿、誰にも見せないで……」

かすれた声は、聞き取れないほど小さい。

橘陸斗は、腕の中の彼女を見下ろした。

無残で、壊れかけていて、青白い。まるで雨に打たれ、死にかけた幼獣だ。

本来なら、全員に見せつけるべきだった。

裏切ればどうなるか、骨の髄まで思い知らせるために。

だが、黒焔の戦狼が精神の深層で低く唸り、運命の契約までもが胸の奥を鋭く引き裂いた。

橘陸斗は険しい顔のまま、結局は身を屈めた。泥水に落ちていた黒いウールのコートを拾い上げ、それで杉山夕晴の身体をすっぽ...

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