53、

重い軍靴の足音が、目の前で止まった。

橘陸斗の大きな影が廊下から差し込むかすかな光を遮り、氷のような蒼い瞳には、ぞっとするほどの怒りが押し込められていた。

杉山夕晴はためらわない。残った力をかき集め、ぬかるんだ土の上を必死に這っていく。

バシッ――

彼女は橘陸斗のズボンの裾を、指が攣るほど強く掴んだ。

「助けて……陸斗、お願い……星ちゃんを、助けて……!」

橘陸斗は足元の女を見下ろす。

泥水と血で顔は汚れ、髪は頬に貼りつき、元の面影すら分からない。

なにより目を刺したのは、左手首の裂け目だった。骨が覗くほど深い傷。めくれた肉の隙間から、暗い赤が指先を伝ってぽた、ぽたと落ちてい...

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