56、

橘陸斗は幅広い革張りの椅子に身を沈め、長い指で机の天板を、気まぐれに――とん、とん、と叩いていた。

机の上には、暗紅色の「熔魂液」が一本。デスクライトの薄明かりを受け、どろりと不気味な艶を返している。

「前の投薬記録を持ってこい」

声は淡々としていて、怒りも喜びも読み取れない。

狼医の身体がびくりと跳ねた。額に冷汗がにじみ、慌ててさらに腰を折る。

「アルファ……こちらは研究室から届いたばかりで、過去の試験データはすべて内網に封印されております」狼医は声を震わせ、必死に動揺を押し殺した。「狼魂に作用する特効薬のため、試験は低階の獣数体と、オメガ二名に限定して行ったのみで……」

橘陸...

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