58、

「どうして……どうして、私にこんなことを……」

杉山夕晴が呟き、堪えていた涙がついに頬を伝った。

闇黒の森で、彼女は命を懸けて彼を守った。彼をアルファの座へ押し上げるため、死にかけたことだってある。

それなのに――結局、彼の目に映っていた自分は、杉山雨音の毒見役でしかなかった。

「もういいから。ここで可哀想ぶるの、やめてくれる?」

杉山雨音は不快そうにスマホを仕舞い、背後の狼医へ振り向く。

「この死にかけ、反抗する気力もないでしょ。さっさとやって。陸斗が書斎で、私の帰りを待ってるの」

狼医はとっくに我慢の限界だった。

床に広がる汚物と、磨かれた自分の革靴とを見比べ、露骨に顔を...

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