第30章

彼がふっと腰を下ろしただけで、場の空気が変わった。まるで帝王みたいな威圧感。佐藤美咲は台本を握りしめたまま彼の前まで行く。書斎に併設されたリビングにはカーペットが敷かれていて、美咲もそれに倣ってあぐらをかいた。途端に視線の高さがぐっと下がり、阿部蓮に見下ろされる形になる。

二人でしばらく、ただ座っていた。

美咲は首の後ろをぽりぽりとかき、台本に目を落としてから、意を決したようにローテーブルへ置く。次いで顔を上げ、目尻に涙を滲ませた。髪をくしゃっと掴んでわざと乱し、小さく整った顔立ちを一気に「守ってやりたくなる」表情へ変える。

そして、泣き声混じりに呼んだ。

「……パパ……」

確かにい...

ログインして続きを読む