第72章

運転手は前方で二人のやり取りを耳にしていたが、本当に佐藤美咲を降ろす気はないらしく、黙々とハンドルを握ったまま車を走らせた。セレブ街へ入り、別荘の敷地に滑り込む。駐車スペースにはマイバッハが一台停まっていた。阿部誠のでも、阿部蓮のでもない。

佐藤美咲はためらいがちに言う。

「お客さん、来てるの?」

阿部蓮はマイバッハを一度だけ見やり、答えなかった。

ほどなく玄関前に車が止まり、佐藤恵子が出迎えに出てきた。佐藤美咲と阿部蓮が降りると、佐藤恵子は二人を見比べるようにして尋ねる。

「高橋詩織は一緒じゃないの?」

佐藤美咲は首を振った。

「うん。オーディションが終わって、先に帰っちゃっ...

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