第89章

三十分ほどして彼が出てきた。髪をタオルで乱暴に拭きながらベッドの縁に腰を下ろし、スマホを開いてここ数日保存していた写真を眺める。とりわけ佐藤美咲のものを――しばらく、黙って見つめた。

それからようやく横になり、眠りに落ちた。

何年も、彼は夢を見ていない。夢は邪魔になる。任務のときは、身体が眠っていても神経だけは起きている。いつでも飛び起きられるように。

だが今夜は、夢が多すぎた。

夢の中で、佐藤美咲の住むマンションが燃えていた。火の海。彼は窓から侵入し、目に入ったのは、丸まった小さな身体――全身が炎に包まれている。火の粉が彼のズボンの裾を舐め、背後では消防隊の隊長が叫んでいた。

「...

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