第29章 人違い

「どうしてそんなに酔ってるの? また付き合いの飲み会? そんなにお酒を飲んじゃダメって言ったでしょ、体に悪いんだから。本当に言うことを聞かないんだから、もうしょうがないわね」

 咎めるような言葉とは裏腹に、その声色には一切とげがなく、むしろ甘やかな響きさえ帯びていた。

 私は携帯を強く握りしめ、体は自ずと震え出す。

 心にある考えが浮かんだ。もしかして、先ほど山本宏樹が呼んだ『奥さん』は、私のことではないのでは?

 松田未菜のことなのでは、と。

 答えを急ぐあまりか、私は電話を切ることができなかった。

 さっき山本宏樹が言っていたことは、昔の私たちがよくやっていたことだ。きっと松...

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