第107章

「……いる」

詩音はぼんやりと顔を上げ、焦点の合わない目で玄関のほうへ視線を向けた。その声は、ひどく弱々しく、ゆっくりとしていた。

「……ドアの、外?」

言い終わるが早いか、こらえきれずにしゃっくりを一つ漏らし、体がぐらりと揺れた。そのまま数秒ほど呆然と座り込んでいたが、やがて両手を上げ、目を覚まそうとするかのように自分の両頬を軽く叩いた。

頭の芯の痺れが少し引くのを待ってから、スマホを握りしめ、ふらつく足元を踏ん張って立ち上がる。そして、すり足でゆっくりと玄関へ向かった。

ドアを開けると、ダークグレーのコートを着た男が静かに立っていた。両手には、ずっしりと重そうなレジ袋を提げてい...

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