第50章

詩音はソファへ歩み寄り、一人掛けの座面に体を深く沈めた。

タイミングを見計らったように田中が近づき、手元に温かいお茶を置いて、また静かに下がっていく。

詩音は視界を遮る後れ毛を耳にかけ、その仕草にはどこか疲労が滲んでいた。温かいお茶を手に取り、うつむき加減で一口すすると、ようやく悠へ視線を向ける。

「お兄ちゃん、どうしてここに?」

眼鏡をかけた悠は、脚を組み、膝の上の書類に目を落としたまま顔を上げない。

「俺が来ていなかったら、いい見世物を見逃すところだった」

彼がわずかに視線を動かし、詩音の羽織っている上着を一瞥して淡々と問う。

「あいつの?」

詩音は一瞬きょとんとしたが、...

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