第六十章

「あり得ない!」

和也の声が病室に響き渡った。まるでくぐもった雷鳴のように重く、空気を震わせる。

彼は詩音を睨みつけ、その目には抑えきれない怒りが満ちていた。

「お前がこれほど腹黒く、息を吐くように嘘をつく女だったとはな。今までどうして気づかなかったんだ!」

一歩踏み出そうとした和也を、悠が腕を上げて遮る。和也はベッドの上の人物を血走った目で見つめた。

詩音は会社を自分の命よりも重んじていた。かつて会社を大きくするため、ほとんど会社に寝泊まりし、徹夜は当たり前、食事すらまともに取らない日々を送っていた。

そんな彼女が、自ら甘んじて身を引き、その座を譲るなどあり得るはずがない。

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