第72章

詩音のポケットの中でスマホが震え、彼女はふと足を止めた。

隣を歩く炎がその様子に気づいたのか、半歩前に出て、繋いでいた小さな手にきゅっと力を込める。しかし、すぐにまたおとなしく力を抜いた。

「ちょっと待っててね」

詩音は目を伏せ、彼に柔らかな笑みを向けると、手を離してスマホを取り出した。

画面に表示された『葵』という名前に、また会社で何か決裁を仰ぐ急件でも入ったのだろうと察する。

スマホの画面を炎に軽く見せて言った。

「急ぎの用件を片付けちゃうから、すぐに終わるわ」

炎は素直に小さな顔を仰ぎ見て、小さく『うん』と頷いた。

そして、その場におとなしく立ち止まると、空いているほう...

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