第91章

「私をご指名ですか?」

詩音は少し驚いた。

彼女を名指ししてくるクライアントはそう多くない。だが、もしかすると和也が前倒しで案件を持ってきてくれたのかもしれないと思い直した。

新しい仕事が舞い込むかもしれないと考えただけで、詩音の口元は自然と綻んだ。

電話を切ると、彼女は炎の頭を撫でた。その真っ直ぐで澄んだ大きな瞳を見下ろしながら、さらに笑みを深める。

「用事があるから、私はこれで」

そう言って、詩音は顔を上げ、悟へと視線を移した。

視線が交差した瞬間、詩音の脳裏に昼間の光景が蘇った。全身ずぶ濡れになりながらも、どこか淡々としていた悟の姿だ。

不意に耳たぶが熱くなるのを感じ、...

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