第93章

詩音は驚いて彼を見つめた。

だが、悟の顔に嘘をついているような色は微塵もない。

彼女の体がわずかに強張る。

悟に向ける視線には、言葉にできない複雑な感情が入り混じっていた。

さっきまで頭の中で組み立てていた言葉が、喉の奥につかえて出てこない。

目の前の男を見つめていると、ここ最近の二人のやり取りがふと脳裏をよぎった。これまでずっと腑に落ちなかった点が一瞬にして線となり、はっきりと形を成していく。

詩音はもう後ずさりしなかった。それどころか、逆に一歩踏み出す。

掴まれていた手で悟の手首を握り返し、少しだけ身を乗り出した。男から漂う爽やかな香りが鼻をかすめる。彼女は上目遣いで彼の表...

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