第72章 育ての恩

遠野周生は、夜見千絢の表情がいくらか和らいだのを見て、探るように口を開いた。

「千絢……新しい家での暮らしはどうだ? 楽しくやれてるか?」

「ええ、順調です。私の生活は、あなたが気にすることじゃない」

夜見千絢の返事には、温度というものがなかった。

今さら思い出したように心配して――遅すぎる。

遠野周生は、自分が気遣いを怠っていた自覚があるのだろう。気まずそうに言い訳を挟む。

「工場のことでずっと手が離せなくてな。君のことを気にかけるのが遅れた。……父さんに怒ってるなら、すまない」

「別に怒ってない」

夜見千絢は淡々と言った。

怒るほどの価値すらない。そういう平静さだった。...

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