第107章

深は沈黙し、夏菜への約束を思い返していた。

一ノ瀬家の家訓において、恩義は命よりも重い。

その骨の髄まで染み込んだ責任感が、今や夏菜の手にある最も鋭利な切り札となっていた。

彼女は深という人間を知り尽くしている。

この男は冷酷でありながら、異常なほど執拗な道徳的境界線を持っているのだ。

深はその血の筋を見つめ、掌に冷や汗を滲ませた。

夏菜のやり口には嫌悪を覚えるが、それでも夏雄の唯一の血肉が、自分の目の前で絶たれるのを黙って見過ごすことはできなかった。

「ナイフを下ろせ」

硬い声で口を開く。

「嫌! 私を追い出さないって約束してくれないなら、絶対に離さない!」

夏菜は声を...

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