第120章

深は毎日定時に帰宅するようになったが、この家で最も疎外された存在となっていた。

ベビーシッターが子どもを抱いて庭を散歩しているとき、遠くから少しだけ盗み見るのが精一杯だ。

近づきたい。けれど、自分に染みついた冷気が、そのささやかな温もりを脅かしてしまうのではないかと恐れていた。

そんな膠着状態は、三日目に破られた。

牧川展行から電話がかかってきたとき、深はダイニングで、すっかり冷え切った朝食をひとりで口に運んでいた。

「一ノ瀬社長、城西の別邸で……問題が起きました」

牧川展行の声には、ひどく焦燥した響きが混じっていた。

「新谷さんが一昨日から絶食しています。水も食事も一切口にせ...

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