第35章

意織は深く息を吸い込み、目頭が熱くなるのを必死に堪えながら、黙々と机の上の資料を片付け始めた。

彼女は泣かなかった。

涙など、この世界で最も無価値なものだ。

オフィスビルを出ると、外はそぼ降る雨だった。

傘を持っていなかった意織が、雨を突いて地下鉄の駅へ走ろうとしたその時、一台の黒いボルボが彼女の目の前に静かに停まった。

窓が下り、心配そうな悠の顔が覗く。

「意織、乗って」

意織は少し戸惑ったが、ドアを開けて助手席に乗り込んだ。

「どうしてこんなに濡れてるんだ」悠がティッシュを差し出す。「会議、うまくいかなかったのか?」

意織は自嘲気味に笑った。

「深が夏菜を連れてきてね...

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