第66章

老婦人の髪には白いものが混じっていたが、その背筋は凛と伸びていた。

「坂本、もう一度聞く。なぜだ」深はスマホを坂本の足元に叩きつけた。

坂本は意織を一瞥し、再び深へ視線を向けた。その瞳に畏れはなく、ただ深い失望だけが沈んでいる。

「坊ちゃま、私はあなたが幼い頃から成長を見守ってまいりました。そして、奥様がこの家でどれほど耐え忍んでこられたかも、ずっと見てきたのです」坂本の声は凪いでいた。「一ノ瀬家は、このような場所ではなかったはず。あなたも、こんな方ではなかったはずです」

「黙れ!」痛いところを突かれたのか、深は声を荒らげた。「一ノ瀬家の飯を食い、一ノ瀬家の屋根の下で暮らしておきなが...

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