第110章

「大丈夫よ」

私は水杯を置き、目の奥に刺すような痛みをぐっと押し殺した。平静を装って目の前の検収書類を開き、まるで他人事を語るみたいに冷えた声を落とす。

「根も葉もない写真が数枚出たくらいで、仕事に支障は出ないわ。今いちばん大事なのはプロジェクトの検収。各部署に言って、最終のデータ報告を退勤までに提出させて」

小村玉子は私を見つめ、瞳の奥に複雑な色を一瞬だけ走らせた。

長く私の傍にいる彼女は、私が『平気なふり』をする癖をとうに見抜いている。

今の落ち着きが、必死に作った薄い膜にすぎないことも。実際、意識は散り、ペンを握る指先はかすかに震えている。書類を開いたまま、私は一行も頭に入っ...

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