第117章

「……藤原奥様?」

その呼び名が耳に入った瞬間、私の視線は氷点まで冷え切った。

三原佳恵子は自分の立場を訂正するどころか、当然のように百合の花束を受け取る。

少し俯き、指先でそっと目尻の涙を拭って――凄絶で、耐え忍ぶような薄い笑みを浮かべた。

『ありがとうございます』

風が吹けば消えてしまいそうな弱々しい声で、彼女は続ける。

『聡は……聡はずっと、優しくて勇敢な人でした。あの人が目を覚ましてくれるなら、私はどんな代償だって払います』

家族を名乗り、正義を背負った顔。

その芝居の入り込みようは、呆れるほど見事だった。

事情を知らない人間なら、本気で信じるだろう。

病室で眠る...

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