第70章

彼は慰めの言葉ひとつ口にしなかった。

ただ私の手を握り、導くようにして――一画一画、ケーキの上に『お誕生日おめでとう』と書かせた。

大きくて温かな掌が、少し冷えた私の指先をすっぽり包み込む。

私は彼の胸に身を預け、澄んだ心地いい香りを吸い込みながら、どくん、どくんと落ち着いた鼓動を感じていた。

不思議なくらい、心がほどけていく。

この人は、この人なりのやり方で――少しずつ、私の過去の傷を撫でならしてくれる。

私の人生に空いていた穴も、置き去りにしてきた悔いも、ひとつずつ埋めていくみたいに。

ケーキの箱は後部座席に丁寧に置いた。

私たちは肩を並べてベーカリーを出る。手には、互い...

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