第73章

陸原紀川視点

自分がどうやって市役所の前を離れたのか、覚えていない。

目に焼きつくように赤い婚姻届受理証明書が二冊。藤原聡の、隠そうともしない笑み。白原花がつま先立ちになって、彼の横顔に落としたキス。

その一つ一つがスローモーションみたいに脳内で繰り返され、何度も何度も、俺を切り刻んだ。

――花は、結婚した。

まだ間に合うと思っていた。

自分は悲劇のヒーローだと酔いしれて、勝手に感動していた。

その間に彼女は、何の未練もなく、自分の人生を別の男にきつく結びつけてしまっていた。

胸に大穴が開いたみたいだった。そこへ冷たい風がごうごうと吹き込み、鋭い痛みだけを運んでくる。

陸原...

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