第89章

彼はこの新しく見つけた『弱点』がよほど気に入ったらしい。薄い唇がまた重なり、あの痣の上を、細かく、執拗に辿っていく。逃げ道のない甘さ。抗えない執着。絡め取られるみたいに、息まで奪われた。

キッチンの空気が、じわりと燃えた。温度が、段々と上がっていく。

呼吸が乱れ、私は力の入らない手で彼の腕に縋る。頭の中は真っ白で、ただ彼に引きずられるまま、深みに沈んでいった。

――その、ちょうどいいところで。

シンク横のカウンターに置いたスマホが、ぶるぶる、と激しく震えた。

耳障りな着信音が、冷水みたいに一気に現実を叩きつけ、部屋に満ちていた艶やかな熱を容赦なく割った。

はっと我に返り、慌てて彼...

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