第91章

彼が私に隠していたのは、ただひとつ。

私を、あの危険と駆け引きの渦に二度と巻き込みたくなかったからだ。明るいところから撃たれる弾も、闇から伸びる刃も――全部、自分ひとりで受け止めるつもりだったのだろう。

私は、その稚拙な嘘を暴かなかった。

それ以上、追い詰めるような質問もしない。

ただ静かに彼を見つめた。

整った顔立ちなのに、疲労だけは隠しきれない横顔。胸の奥に、細い糸みたいな痛みがじわりと広がっていく。

一歩、距離を詰める。

両手を上げて、そっと彼の頬を包んだ。

藤原聡がわずかに目を見開く。驚きが走り――すぐに、春の水面みたいなやわらかさへ溶けた。

『聡』

親指で、彼の...

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