第15章

北野紗良は顔を上げ、長谷川冬馬を見つめた。その表情には適切な微笑みが浮かんでいて、まるで午後のストーキング事件などなかったかのようだった。彼女は立ち上がりもせず、ただ軽く頷いただけだった。「お帰りなさい」

その口調は、まるで普通の友人に挨拶するかのように淡々としていて、婚約者同士の親密さは微塵も感じられなかった。以前のような臆病さや取り入るような態度も消えていた。

長谷川冬馬は心に怒りが湧き上がった。この女、よくも直接家に来て、祖母までコロッと丸め込むとは！

一体何をたくらんでいるんだ？

彼は怒りを抑え、ソファの傍らに腰を下ろし、冷たい視線で北野紗良を見据えた。「どうして来たんだ？」...