第51章

「長谷川社長、このフロアでございます」

ホテルの支配人は腰を低く折り曲げ、顔いっぱいに媚びた笑みを浮かべながら、細心の注意を払って案内していた。

廊下には艶めかしい香水の匂いが漂い、露出度の高い服装の女性たちが酔いどれの金持ち息子の腕に抱きついたまま部屋から出てくる姿も見られた。長谷川冬馬の姿を認めると、彼女たちは一様に身を引いた。

このホテルはK市でそれなりに知られた存在で、松本遠のような坊ちゃん育ちに「特別なサービス」を提供していることはほとんど公然の秘密だった。

長谷川冬馬の表情は険しく、その身からは人を窒息させるような冷気が放たれていた。

そのとき、廊下の向こうから突然大き...

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