第54章

休憩室内、長谷川冬馬はソファに座り、長い脚を組み、冷淡な表情で人を寄せ付けない雰囲気を漂わせていた。

「冬馬……」市川美咲は柔らかな声で呼びかけ、おずおずと彼の隣に座った。目には心配の色が満ちている。「本当に決めたの?北野さんとの婚約を解消するって?」

彼女は少し躊躇してから、付け加えた。「お婆様は北野さんをとても気に入っていらっしゃるわ。きっと同意なさらないと思うけど……」

そう言いながらも、彼女の眉目には期待と探りの色が混じり、表面上の心配とは裏腹に内心の打算を隠しきれていなかった。

長谷川冬馬は顔を上げ、薄い唇を開いた。「婚約破棄は北野紗良自身が申し出たことだ。お婆様が知っても...

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