第55章

「もちろん違います!」

長谷川のお婆様が吉田さんの手を借りて、ゆっくりと歩いてきた。

長谷川家で長年権力を握ってきたお婆様は、怒らずとも威厳に満ちた雰囲気を纏っていた。

北野紗良は眉を寄せた。お婆ちゃんはめったに外出しないのに、今日はなぜ突然ここに現れたの?

もしかして、婚約破棄の件を誰かが伝えたのだろうか?

長谷川のお婆様は高齢ながらも、かつての威厳を少しも失っていなかった。

彼女の鋭い視線が会場の一人一人を見渡し、最後に壇上の長谷川冬馬と北野紗良に注がれた。

長谷川冬馬は表情を変えず、「おばあさん」と一言呼びかけただけで、驚いた様子はなかった。

「まだ私をおばあさんと思っ...

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